モーター選定はなぜ計算通りにいかないのか|η理論とη実機で考える現場設計

この記事で分かること

  • モーター選定が計算通りにいかない理由
  • 効率ηとは本来何を意味するのか
  • 「効率を掛ける」「割る」の違い
  • η理論とη実機の違い
  • なぜ現場では“重い設備”が存在するのか
  • ロール本数・芯ズレ・汚れが負荷へ与える影響
  • 設計者がどこで余裕を見ているのか

モーター選定は「計算」よりも「ズレの見積もり」が難しい

モーター選定というと、

  • 必要トルクを計算
  • 必要出力を計算
  • 安全率を掛ける

という流れで説明されることが多いです。

しかし実際の設備では、

計算上は足りているはずなのに、
実機ではモーター電流が高い

ということがわりと起きます。

特に搬送設備では、

  • ベアリング抵抗
  • ベルト張力
  • 芯ズレ
  • ロール平行度
  • 据付精度
  • 汚れ
  • 経年劣化

など、理論計算へ現れにくい要因が大量に存在します。

つまり実務で本当に難しいのは、

「理論値を出すこと」

ではなく、

「理論値が現場でどれだけズレるかを読むこと」

なのです。



教科書の計算は「理想状態」が前提

例えば搬送ロールの駆動を考える場合、一般的には、

  • 荷重
  • 搬送速度
  • ロール径
  • 回転数
  • 慣性モーメント

などから必要トルクを計算します。

しかし、この計算には通常、

  • 据付歪み
  • ベアリング劣化
  • 汚れ
  • ベルト片当たり
  • 張りすぎ
  • 樹脂付着
  • ロール高さズレ

などは含まれていません。

つまり教科書の計算は、

「新品・理想状態」

を前提としていることが多いのです。



効率ηとは何か

効率η(イータ)は、

「入力したエネルギーのうち、どれだけ有効利用できたか」

を表す係数です。



なぜ設計では「効率で割る」のか

モーター選定では通常、

必要モーター出力=必要出力 ÷ η

となります。



η理論とη実機を分けて考える

実務では「効率」という言葉の中に、

  • 機械的損失
  • 現場抵抗
  • 経年劣化
  • 据付誤差

などが混ざって使われることが多いです。

そのため本記事では、

  • η理論
  • η実機

を分けて考えます。



η理論とは

η理論は、

「理想状態での機械効率」

です。

例えば:

  • 減速機
  • チェーン
  • ベルト
  • 軸受

など、カタログや理論値で表せる効率です。


η理論は積算して考える

動力伝達は通常、直列に繋がります。



しかし実機は理論通りにならない

実際の設備では、

η理論 = 0.86

だったとしても、その通りにならないことが多いです。

理由は、

  • 芯ズレ
  • 据付歪み
  • ベルト張りすぎ
  • 汚れ
  • 経年劣化

などが存在するためです。


η実機とは

η実機とは、

「実際の設備で発生する損失を含めた補正」

です。



ロール本数が増えると設備は急に重くなる

搬送設備では、

ロール1本の抵抗は小さい

ため、軽視されやすいです。

しかし実際には、

  • ロール本数
  • 軸受数
  • 芯ズレ箇所
  • 接触箇所

が増えることで、設備全体の負荷は大きく増加します。



軸受抵抗が積み重なる

ロール1本には通常、軸受が2個あります。

例えば:

ロール本数軸受数
5本10個
10本20個
30本60個

となります。


ロール本数が増えるほど「ズレ要因」も増える

ロールが増えるということは、

  • 平行度調整箇所
  • 高さ調整箇所
  • 芯出し箇所

が増えるということです。



芯ズレは局所的に大きな負荷を生む

芯ズレは単なる位置ズレではありません。

  • ベルト片当たり
  • 軸受偏荷重
  • チェーン偏摩耗

などを発生させます。



汚れ・付着の影響も積算される

新品時は軽く回転していても、

  • 樹脂
  • 粉体
  • スラッジ

などが付着すると、回転抵抗が増加します。



ロール抵抗は最終的にモーター負荷へ繋がる

小さな抵抗は最終的に、

  • 張力損失
  • モーター電流増加
  • 発熱
  • 部品寿命低下

へ繋がります。



実務では「重そう」という感覚も重要

実際の現場では、

この設備、なんか重そう

という感覚が非常に重要です。

例えば:

  • ロール多数
  • 古い設備
  • 既設改造
  • 樹脂設備
  • 汚れ環境

などでは、理論計算だけでは実態に合わないことが多いです。



最終的な考え方

実務では、次のように整理すると分かりやすくなります。

必要モーター出力=理論出力÷ η理論÷ η実機× 安全率



設計者は「何に怯えているのか」

設計者は、

  • 据付誤差
  • 汚れ
  • 劣化
  • 張力変動
  • 将来トラブル

を恐れています。

つまり、

「現場で苦しまないための余裕」

を見ているのです。


まとめ

モーター選定で本当に難しいのは、

「理論計算」

ではなく、

「理論値が現場でどれだけズレるか」

を読むことです。

そのため実務では、

  • η理論
  • η実機
  • 安全率

を分けて考えると整理しやすくなります。

特に搬送設備では、

  • ロール本数
  • 芯ズレ
  • 汚れ
  • 経年劣化

など、小さな抵抗が積み重なります。

つまり設計とは、

「η実機を読む仕事」

とも言えるのです。